雨の匂い

京都へ向かう電車の、一番うしろの車両で、母親にはLINEを、父親にはメールを書いていた。今日の出来事を伝える。「さっきお母さんから聞いたんだけど…」という、十五分前に母親に伝えた内容を引用する父親の文面。二人とも同じ場所にいて、それぞれに違う文章を書いているのに、けっきょくそれぞれの内容が二人ともに伝わっているのが可笑しい。今日の大阪はジリジリとした暑さだった、なんて話をしていた。

京阪特急が少し進んでは扉が開く。北浜、天満橋、京橋、枚方市、樟葉。ぼんやりしていると京都に入っていた。と、次の瞬間、むわっと雨の匂いがして顔を上げた。外は晴れているけど、独特のあの匂い。夕日と相まって、電線がキラキラ光っている。このとき、なぜかはわからないけどす、すげえ…! ととてもびっくりした。やわらかい光が地面に暗いところと明るいところを作っているのを、車掌席を通して見ている。手前の席ではネコみたいな顔した男の子が眠りこけていたけれど、かれは最後の駅まで起きなかった。