フーフのロール

「夫が居間で客人の相手をしている横で、妻は台所で料理の準備や後片付けをする」

昔ながらの夫婦感というと、こんな感じだろうか。「男女平等」という教育をされて育ったわたしは、この価値観がよくわからなかった。不公平感というよりかは、「女の人はなぜ黙って尽くすことができるのだろう? 」という疑問があった。どうして、楽しそうなことをしている横で黙々と作業がこなせるのだろうか。こどものわたしは、大人になって結婚すれば、自然と割り切ることができるようになるのかと思っていた。


先日とても素敵な夫婦を見た。その夫婦は、田舎に住む昔ながらの夫婦である。奥さんは、旦那さんが客とお酒を飲んでいる横で楽しそうに料理をしている。そこに「仕方ないからやっている」ような印象はない。よく見ると、旦那さんはつねに奥さんのことを気遣っている様子である。今何をやっているかは把握しているし、時おり話しかけたり、ビールを差し入れたりしている。準備ができると、奥さんは席に混じって楽しそうに話をするし、チャーミングに冗談を言ったりする。

もしかすると、夫婦というのはロールなのかもしれないな、と思った。ロールと言うと難しいけど、例えば仕事のチームなんてのはディレクターとプレイヤーがいたりする。ディレクターは手を動かさないが、プレイヤーより立場が上かというと、必ずしもそうではない。ディレクターというのはロールである。(まあ、現実的には立場が上の人がディレクターを務めることのが多いのだろうけど、概念的にはそうである必要はない、というのを言いたい)

夫婦は、同じ目的を持ったチーム。仕事での関係がそうであるのと同じように、チームは信頼関係があって初めて成り立つ。お互いがお互いのことを尊敬する必要がある。わたしが、この夫婦を素敵だなと思ったのは、その信頼関係が感じられたからだろうか。尊重し合える仲は美しいよ。


あ、もちろん、この男女のロールの分け方だけが不変の真実であると言いたいわけではない。現代に生きているのだから、ロールのあり方は三者三様でいい。二人ともがプレーヤーであってもいいし、日によって交代してもいい。大切なのはチームとして前向きかどうかである。ただ、相手を尊重する気持ちがないのにロールだけが形式ばっているのは、しんどいことかもしれない。