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なんでもない瞬間に名前をつける

スケロク君という人がいる。なぜスケロク君と言うのかは知らない。かれが「ゆりりーさん(私)におすすめの本があるので今度あげます」というので、楽しみに待っていた。自由律俳句の詩集だった。

それは、「カキフライが無いなら来なかった」という本である。おもしろくてすぐに読んでしまった。俳句と言うと、四季の情景とか温度とか感覚を思い浮かばせるようなことばを使って、みずみずしく詠うものを思い浮かべるが、これは普段の何気ない瞬間を切り取ったもの。

読んでいて一番驚いたのは、こんなになんでもない瞬間に名前をつけてもいいんだ……! ということである。よくよく考えると(?)そりゃそうなんだけども……。何かを作ろうとすると、なんだか耳障りの良さそうな「正義」を作らないといけないって思っちゃうじゃない。あ、そうでもないか……。

それで、そうかと思えば「桜」や「入道雲」や「毛玉」といった単語がふと出てきたりする。「灯油のメロディ」というフレーズだけで、冬の澄んだ空気や、彩度が低めの情景が頭に思い浮かぶ。この本には、現代の都市の四季が詰まっているようだった。

読んでいてなんだか詩を作りたくなってきた。とりあえず一昨日の雨の日の夜中に布団の中で思った「『バケツをひっくり返したような雨だね』と言う相手がいない」というのをあいふぉんにメモした。この本を読んでから、近所にある古い商店の看板のフォントが丸文字だったとか、地下鉄から地上に上がるときの階段に入りこむ光が眩しすぎるとか、かなりどうでもいいことが気になるようになった。こんな瞬間を言葉にしていいなんて知らなかった。


なぜこの本をおすすめされたのかはわからない。Amazonでさえ、「この商品を買った人はこんな商品も買っています」とか「あなたのお買い物傾向から」だとか、おすすめする理由を教えてくれる。けど、なぜ勧めたのかを聞くのは野暮なので聞かない。