夜の秋


ふるさとや 母の寝息聞く 夜の秋

もう9月の中頃ですが、8月末に実家に帰っていました。育った場所を離れてはやくも4ヶ月が経とうとしている。久しぶりに帰ると私の部屋はなくなっていて父の趣味の部屋になっていた。

今まで寝ていた自分の部屋がなくなったものだから、母と同じ部屋で寝ました。母とふとんを並べたのは十数年ぶりで、なんだか子どもの頃みたいだった。目をつぶると、心地よい夜風と一緒に、幾重にも重なる虫の声が聞こえてくる。育った場所がこんなに静かだなんて住んでいた頃は気がつかなかった。そんなことを思いながら耳を澄ますと虫の声といっしょに重なる音があった。それは長らく聞くことのなかった母の寝息だった。

そしてふと、こんなふうに母の寝息を聞くこともそこまで多くないことに気がついてしまって、ものすごく悲しくなりながら眠りについた。



夏の終わりのこの情景や、音や、温度を、なんとかして残したいと思った。そしてそれには俳句がぴったりだと思った。
俳句を詠むのはこれが初めてなのだけれども。
季語には「夜の秋」を使いました。秋って言ってるけど夏の季語。夏の終わりの、なんだか肌寒い夜のこと。
季語には「秋の夜」というのもあって、これは文字通り秋の季語。秋特有の長ーい夜のことを差します。

ささやかな違いだけれど、肌感覚を感じることのできる日本に生まれたのはたいへんすばらしいことだなって、最近になって思います。