読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

静かな隣人

会社から一歩外へ出ると、静かに雨が降っていた
朝にはそんな気配を一切感じなかったもので、私は傘を持っていなかった
自宅までは歩いて10分程度で、そのくらいならまあいいかと思ってそのまま歩き始めた
雨は冷たいけれども最近の外気の暖かさならそこまで気にならない
とは言え10分も歩くとすっかりびしょ濡れになった

マンションにつくと、珍しく住人とエレベーターを乗り合わせた
かわいい女の子で、新しく買ったかのような布団を抱えていたので、私と同じく最近引っ越してきたのだろうなどと考えていた
エレベーターを降りると、隣人の玄関先に濡れた傘が置いてあるのに目が止まった
何の変哲もない普通のビニール傘だったが私にはそれが異様な光景に見えた
入居して二週間程度たつが一切の物音を感じたことがなく、誰も住んでいないと思っていたからだ
どんなに住宅の防音設備がしっかりしていようとどんなにもの静かな人であったとしても、普通に生活しているとドアの開け閉めの音だとか咳払いの一つや二つしてもいいはずなのに、それが全くない
隣人が騒がしいのも考えものだがここまで静かなのも気味が悪い


隣人は、今スピーカーで音を拡張して曲を流しているのをどういうふうに感じているのだろうか?
引っ越ししたてでバタバタと音をたてて掃除をしてるのをどういうふうに思っているのだろうか?
こちらの音がどれだけ聞こえているかはわからないので思慮深くなる


今のこの瞬間も、私がそんなことを考えているのはおかまい無しに傘についた水滴はしたたり落ちるのであろう